キッチンカーは外食産業への参入障壁が低いので、外食産業のオーナーを目指す人々の開業熱が高いと言われています。この開業で一番重要なことが用意周到な開業準備と言われています。ここではキッチンカー開業に必要な資格と営業許可、開業に要する初期投資内訳、開業準備の進め方などを解説します。
キッチンカー開業のメリット

キッチンカー開業のメリットとして、一般に次が挙げられます。
(1)初期投資が少ない
キッチンカーの初期投資は、固定店舗と比べ段違いに低いのが特徴と言われています。例えば初期投資が低いと言われているカウンター席のみ10坪程度のラーメン店開業の場合でも、物件取得費、初回家賃、内外装工事費、厨房設備費、食器・備品購入費、広告宣伝費などで最低1500万円はかかると言われています。
対してキッチンカーの場合は物件取得、家賃、内外装工事、厨房設備などは不要なので、初期投資は200万―300万円で済むと言われています。
(2)人件費が安い
キッチンカーは1オペ・2オペ営業が可能なので、人件費は安くて済みます。
(3)売上チャンスの逸失を防止できる
固定店舗の場合、営業場所の移動ができません。しかしキッチンカーの場合は移動ができるのでオフィス街、商業地、イベント会場など人出が多い場所を選び、曜日ごとに場所を変える営業もできます。これにより売上チャンスの逸失を防止し、安定的な売上げ確保が可能になります。
キッチンカー開業に必要な資格と営業許可

キッチンカーの開業には基本的に次の資格と営業許可が必要です。
(1)食品衛生責任者資格
許可や届出対象となるすべての飲食施設は「食品衛生責任者」の配置が義務付けられています。キッチンカーも1両ごとに食品衛生責任者を1名配置する義務があります。
食品衛生責任者資格は、「食品衛生協会」が実施している約6時間の「養成講習会」を受講、「講習確認試験」に合格すると取得できます。
なお調理師、船舶料理士、製菓衛生士、栄養士などの有資格者は、上記講習を受講しなくても食品衛生責任者になれます。
(2)営業許可の取得場所
キッチンカーの営業許可は、営業場所ごとにその地域を管轄する保健所で取得する必要があります。この取得地域は広域自治体ごとに異なっているので要注意です。
例えば大阪府の場合は大阪市、東大阪市、堺市など計10カ所の保健所で取得しなければなりません。一方、東京都や神奈川県の場合は都内・県内一円のいずれかの保健所で取得できます。
(3)営業が許可されるメニューはキッチンカーの給排水タンク容量により異なる
キッチンカーの給排水タンク容量は40ℓ、80ℓ、200ℓの3種類で、種類別にキッチンカーの営業で許可される調理法と営業メニューが定められています。
- 給排水タンク容量40ℓの場合
・調理法……単一工程の調理(温める、揚げる、蒸す)のみ
・営業メニュー……ピザ、フライドポテト、唐揚げ、中華饅頭など
- 給排水タンク容量80ℓの場合
・調理法……大量の水を使わない2工程の調理
・営業メニュー……クレープ、冷やしラーメン・うどんなど
- 給排水タンク容量200ℓの場合
・調理法……大量の水を使う3工程以上の調理
・営業メニュー……麺類、丼物、カレー、焼きそば、お好み焼きなど
(4)営業許可取得に必要な主な書類
・営業許可申請書
・食品衛生責任者資格証明書
・キッチンカーの平面図
・キッチンカーの調理設備一覧
・キッチンカーの車庫証明書
なお営業許可申請当日に、キッチンカーの設備実見検査が行われます。
キッチンカー開業に要する初期投資の内訳
キッチンカー開業の初期投資内訳として、一般に次が挙げられます。
・キッチンカー調達費
・キッチンカー内外装費
・調理設備・器具調達費
・食器・備品・消耗品調達費
・看板、幟、チラシ、POPなどの販促物購入費
キッチンカー開業準備の進め方

キッチンカーの開業準備は、基本的に次の手順で行います。
手順1:開業計画策定
開業計画の策定において、最初にしなければならないのが営業コンセプトの明確化です。
ターゲットの客層、営業場所、営業メニューなどを具体的に書き出し、漏れや重複がないかをチェックして整理し、これを文書化するとコンセプトが明確化します。これが曖昧だと収支計画や手順2以下の準備がぶれてしまい、実現困難な計画になる可能性があります。
また文書化による客観視で、コンセプトの不備も発見できるでしょう。
次に明確化したコンセプトに基づき、キッチンカーの調達費、調理設備・器具の調達費などを積み上げて初期投資額を算出します。
その上で1年間の売上目標、原価、粗利、販売管理・販促費、営業利益などの収支計画を練り、この収支計画に基づき初期投資の回収期間を割り出します。
最後に開業準備をスケジュール化して一覧表にすると共にチェックリストを作り、準備の進捗状況を管理します。
手順2:開業資金の調達
開業資金の全額を自己資金で賄えるケースは少なく、通常は自己資金の不足額を金融機関の事業融資や日本政策金融公庫の「新創業融資制度」で調達することになります。
いずれの場合も融資審査を受けるためには、初期投資の内訳や収支計画を盛り込んだ事業計画書の提出が必要になります。
手順3:営業場所の確保
キッチンカーの路上営業は道路交通法の取締り対象になるのでNGです。
そこでキッチンカーの営業場所として一般に次が挙げられます。
- オフィス街
オフィス街の場合は、キッチンカー営業OKのオフィスの敷地の一部を賃借した営業が可能です。近隣オフィスで働く人たちのランチ需要を狙った昼間の短時間営業になります。営業メニューも作り置きの弁当・パン類が中心になります。
- 大型複合施設
オフィス、レストラン、商業施設などが集積した大型複合施設の場合も、敷地の一部を賃借した終日営業が可能です。一定の集客が見込めるので様々なメニューで営業ができ、安定的な売上確保の可能性があります。
- 大型商業施設
ショッピングセンター、ショッピングモールなどの大型商業施設の場合も、敷地の一部を賃借した営業が可能です。この場所も終日営業や様々なメニューの営業で、安定的な売上確保の可能性があります。
- イベント会場
地域ごとの様々な祭事、フリーマーケット、各種イベントなどの開催日は、会場の一部を賃借した営業が可能で、様々なメニューの営業ができます。ここは他の営業場所より人出が多いので、高い売上確保の可能性があります。
手順4:営業メニューの決定
営業場所確保の目処を付けたら、その場所の客層に適した営業メニューを決めます。
オフィス街の場合はランチ需要がメインなので、メニューはある程度絞り込めます。その他の場所は需要が千差万別なので、事前に需要調査を行うなどによりメニューを絞り込む必要があります。
手順5:キッチンカーの調達
営業メニューを決めたら、そのメニューに適したキッチンカーを調達します。キッチンカーの調達には、一般に次の方法があります。
- 所有車をキッチンカーに改造する
自己所有の車を自分で改造する方法です。
- 購入した車のキッチンカー改造をキッチンカー製作会社へ依頼する
自己所有車や購入した車のキッチンカー改造をキッチンカー製作会社へ依頼する方法です。店主が使いやすい調理設備と調理動線のキッチンカー調達が可能になります。
- 中古キッチンカーを購入する
既存のキッチンカーを購入する方法です。
調達費が安い反面、既存品なので改造の余地は限られ、また中古なので調理室設備の故障リスクも高いと言われています。
- キッチンカーをリースする
既存のキッチンカーをリース会社に購入してもらい、それを借用する方法です。
リースのメリットは初期投資額を抑制できることと、リース料を経費計上できることです。
反面、
・キッチンカー購入より調達費が高くなる
・リース契約期間が長く、契約中の解約も困難なので、その間にキッチンカー自前購入の資金的余裕ができてもリース料を払ってリース車を使い続けなければならない
などのデメリットがあります。
この他、営業許可取得済みの車をレンタルする方法もありますが、一時的な借り物なので、長期営業には不向きと言われています。レンタルやリースは試験営業をはじめ一時的な営業時の選択肢とし、長期営業を行う際は自身で購入して所有するのが無難です。もしどんな車を選んでよいか分からない場合、業者に相談するのが無難です。
手順6ː営業許可を取って開業
営業許可の取得には1週間から2週間かかると言われています。これを前提に開業準備をすれば、スケジュール通りの開業ができるでしょう。
まとめ
キッチンカーは固定店舗と比べると初期投資額が低く、リスクも低いビジネスと言われています。とは言え開業準備の詰めが甘いと成功はおぼつかないでしょう。用意周到な開業準備と開業後の緻密な収支・リスク管理が何よりも重要と言えます。